FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

アルバトロスは羽ばたかない/七河迦南

アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

 デビュー作『七つの海を照らす星』で、第18回鮎川哲也賞を受賞した作家の第二作。『七つの海を照らす星』に引き続き児童養護施設、七海学園を舞台にしており、登場人物も重複している。
 この『アルバトロスは羽ばたかない』の世評が高かったため、『七つの海を照らす星』から手に取ったのだが、そのときの感想は「まあまあ。福祉に関する知識がないとちょっととっつきにくいかな」というものだった。
しかし、この『アルバトロスは羽ばたかない』には驚かされた。シリーズものでこれをやるか、という驚きがあった。
 児童養護施設という舞台、そこに登場する健気な関係者たちと、不幸な子供たちという登場人物、ともすればお涙頂戴、ウェットこの上なくなるであろう題材を、作者は非情なほど現実的な視点で描き、しかもミステリ作家としてうまく「驚き」を仕込んでいる。
 ある高校の文化祭の日、七海学園の関係者が巻き込まれた転落事件。それは、学園の保育士、北沢春菜が以前から関わりを持つ少女とも密接につながりがあった。
 これ一作でも楽しめるが、『七つの海を照らす星』を読んでいた方がよほど驚くことができるはず。昨年二〇一〇年度の日本のミステリのこれは収穫。

七つの海を照らす星

七つの海を照らす星