FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

黒衣の女/スーザン・ヒル

黒衣の女 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)

黒衣の女 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)

 ウィルキー・コリンズ『白衣の女』も好きだが、このスーザン・ヒル『黒衣の女』も好きだ。
 実に折り目正しいゴシックホラー。十年以上も前に初めて読んだときは地味な話だと感じたが、改めて読み直してみると、繊細な風景描写が恐怖をよりいっそう際立たせていて、好ましい。
 再婚した妻エズメやその継子たちと≪修道士の館≫で、幸福に暮らす弁護士キップス。クリスマスの夜、彼は思い出す。若かりし頃、<うなぎ沼の館>で彼を襲った怪異とそののちの悲劇を。
 ゴシックロマンの傑作ダフネ・デュ・モーリアレベッカ』で大邸宅マンダレイが燦然と屹立しているよう、本書でも<うなぎ沼の館>という建築物が並々ならぬ存在感を放っている。沼と河口と広大な空のひろがりが一度に見渡せる館で、冬には濃く深い霧に包まれ、潮の満ち引きによっては道から切り離され、孤立してしまう。そして沼地に飲み込まれる馬車の幻影が見え、少年の悲鳴が聞こえ、黒衣の女の亡霊が現れ、彼女が現れたのちは、必ずある惨劇が起こる……。
 こう書き上げているだけでもぞくぞくとする、幽霊屋敷小説の傑作。最後の最後になって現れる、ある仕掛けも好きだ。
 ダニエル・ラドクリフ主演で映画になるようだが、完成が楽しみである。端正で、静謐なゴシックホラー映画になってほしい。

レベッカ〈上〉 (新潮文庫)

レベッカ〈上〉 (新潮文庫)

レベッカ〈下〉 (新潮文庫)

レベッカ〈下〉 (新潮文庫)

白衣の女 (上) (岩波文庫)

白衣の女 (上) (岩波文庫)

白衣の女 (中) (岩波文庫)

白衣の女 (中) (岩波文庫)

白衣の女 (下) (岩波文庫)

白衣の女 (下) (岩波文庫)

↑ゴシック小説の傑作群。色褪せない魅力にあふれている。