FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

風に乗ってダンスを/メアリー・ジョー・パトニー

風に乗ってダンスを (ラベンダーブックス)

風に乗ってダンスを (ラベンダーブックス)

 『堕天使たち』シリーズの一作。この文章を書いているのが、二〇一〇年六月なのだが、今現在のところ翻訳されている『堕天使たち』シリーズの『楽園は嵐の果てに』と『虹のかけらを抱きしめて』が傑作だとしたら、この『風に乗ってダンスを』はまあまあといったところ。彼女の作品すべてを読んだことがないのにこういった評価を下すのはおかしいかもしれないが、メアリー・ジョー・パトニーは平均点の高い作家である。
 ロマンス小説では、「謎めいたヒーロー」は腐るほど出てくるが、その逆、ヒーローや読者になかなか正体を現さない「謎めいたヒロイン」はなかなか出てこない。だが、この『風に乗ってダンスを』には登場する。ネタバレのために伏せるが、メアリー・ジョー・パトニーの別の作品にも、ヒーローと読者に自分に関わるある事実を終わり近くまで伏せていて、仰天させてくれたヒロインが出てくる。
 十九世紀、フランス皇帝ナポレオンが退位したのちの英国。ストラスモア伯爵にして大ブリテン島の諜報組織の元締めであるルシアンは、おかしなことに気付いた。イギリスを裏切り、フランス側についたスパイを追う最中、出くわした女達。女中、バーテンダー、そして娼婦。これら三人の女性は、顔形を変えているものの、すべて同一人物なのではないだろうか。自分と同じく、どうもなにかを探していると思しき女は、あるときは有名な論評者と名乗り、別のときは女優と自称し、また別のときは淑女としてルシアンの前に現れた。一体彼女はなにもので、なにを探しているのか。
 読者にさえなかなか正体を明かさないヒロインという趣向が、ロマンス小説として斬新に感じられて良かったのだが、ヒロインの正体と目的が分かってからの展開はやや陳腐である。
 総合すると、前述の通り、まあまあの作品。

楽園は嵐の果てに (ラベンダーブックス)

楽園は嵐の果てに (ラベンダーブックス)

虹のかけらを抱きしめて (ラベンダーブックス)

虹のかけらを抱きしめて (ラベンダーブックス)