FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

カマフォード村の哀惜/エリス・ピーターズ

カマフォード村の哀惜 (海外ミステリGem Collection)

カマフォード村の哀惜 (海外ミステリGem Collection)

 フェルス一家シリーズの第一作目。終戦直後のカマフォード村を舞台にしており、ドミニクはまだ十三歳である。
 村で嫌われもののドイツ人が殺された。しかも死体を発見したのは、ドミニクとその友人のプシーだ。ドミニクの父、村の巡査部長ジョージ・フェルスは、捜査を進める。ドミニクも好奇心を抑えられず、独自の調査に乗り出した。
 小さな村を舞台に、大地主や農牧場経営者、学校教師やパブの主といった登場人物を揃えた、典型的なヴィレッジ・ミステリだが、悪くない。犯人やその動機にも大きな意外性はないが、手堅くできている。
 だが、ひっかかりが一つ。被害者となるドイツ人は、終戦後の今でもナチスの影響下から抜け出せず、村に住むユダヤ人女性に嫌がらせを加えるという実に嫌な人間として造形されているのだが、こういった敗戦国側のひたすら嫌な奴を、イギリス、つまりは戦勝国側の作家が描くことにかすかな傲慢さを感じる。「戦争に強い影響を受けた嫌な奴」ならば、もっと他の形でも創造することができたのではないか。