FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

姉妹の家/シャルロッテ・リンク

姉妹の家〈上〉 (集英社文庫)

姉妹の家〈上〉 (集英社文庫)

姉妹の家〈下〉 (集英社文庫)

姉妹の家〈下〉 (集英社文庫)

 謎めいた手記や絵画が出てくる小説が大好きだ。ある一族の年代記みたいな小説も大好きだ。この『姉妹の家』は、納屋から、一人の女性の手記……彼女の半生を綴ったものにして、ある二つの家の年代記めいたもの……が見つかるという、大変当方好みの設定の小説である。とても面白かった。
 ドイツ人の弁護士夫妻、バルバラとラルフ。二人はビジネス面ではお互い成功しているものの、夫婦関係には隙間風が吹きかけていた。二人はクリスマスの休暇を迎えようと、イギリスはヨークシャーへと旅立つ。
 ところがヨークシャーで借りた屋敷(通称『姉妹の家』)は吹雪に閉ざされ、夫妻は食糧や燃料にもことかくありさまだった。家探しをしていたバルバラは、納屋で一人の女性の手記を見つける。
 それはフランシス・グレイ、この屋敷の元の所有者の女性が書いた、彼女の半世紀だった。
 作者シャルロッテ・リンクはドイツの売れっ子作家。つまりは「イギリス人女性の綴った手記を、ドイツ人女性が見つけて読み続ける」という小説をドイツ人女性作家が書いたわけだ(なんだかややこしい)。
 個性の異なる姉妹の確執、二度に渡る世界大戦、戦争がもたらした親しい人間達の変化、秘密の恋……という、やや昼メロ風の物語が、細やかで丁寧な筆致で描かれる。そしてフランシスの手記は、それを読むバルバラにも強い影響を与える。
 普通小説かと思いきや、謎解きとサスペンスの要素もあり。それでも「**の子孫は、実は○○でした」という類の安直なオチがないのも、好印象。
 年代記やら日記やら秘密の手記やらがお好きな読者には、ぜひ勧めたい作品。むろんつらい時代を強く生きた女性の物語が読みたいという人にも。
 やはり好きな小説、バーバラ・ヴァイン『アスタの日記』を思い出した。

アスタの日記〈上〉 (扶桑社ミステリー)

アスタの日記〈上〉 (扶桑社ミステリー)

アスタの日記〈下〉 (扶桑社ミステリー)

アスタの日記〈下〉 (扶桑社ミステリー)