FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ステラの遺産/バーバラ・ヴァイン

ステラの遺産 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ステラの遺産 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

再読である。情けないことに覚えていたのは、最後の最後で分かる、あってもなくてもいいような「意外な真実」の部分のみだったので、大変楽しく読めた。
ルース・レンデルの作品には、ウェクスフォード警部もののシリーズも含めて、どこか優れたゴシック小説の匂いがする。バーバラ・ヴァイン名義で書かれたものは、さらにこの香りが強い。陰惨な過去を持ち、大きな秘密を持つ人間がそれを語る、もしくは独白するというパターンが比較的多いためである。

死んだ人間の服は長持ちしないのよ。持ち主のことを思うから。

この秀逸な書き出しから始まる本書には、おぞましい過去につきまとわれて生きる老女が描かれる。老人ホームで働くジェネヴィーヴは、担当する老女ステラの告白を聞くこととなる。ステラは癌で余命いくばくもない身。しかし美しく、どこか神秘的な老女で、ジェネヴィーヴとは友人のような関係になりつつあった。
ステラは語る。自分の子供すら知らない家の存在を。ステラの夫レックスが、ステラ以外の女を熱愛し、ステラもまたレックス以外の既婚の男性と愛し合っていたことに。そしてこういった恋愛が恐ろしい結末を誘ったことをほのめかす。ステラの語りは、やはり人妻の身でありながら、妻子ある男性と不倫関係にあるジェネヴィーヴを引きずり込んだ。
だがステラは、ジェネヴィーヴは知らぬところで、テープにも己の独白を吹き込んでいた。
不幸に終わる不倫の恋愛という一見通俗的なテーマを扱いつつも、やはり典雅な印象を与えるのはレンデル=ヴァインの文章力ゆえか。ジェネヴィーヴの語りの中に時折織り込まれるイギリスの迷信も、物語に神秘的な彩りを与えている。