FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

殺す者と殺される者/ヘレン・マクロイ

 

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)

 これも『幽霊の2/3』同様、復刊されたことが素直に嬉しいミステリである。
 本書はヘレン・マクロイがこれを書いた当時の読者より、現在の読者の方が遙かに真相を看破しやすいだろう。そして、それを陳腐なネタとさえ思うかもしれない。しかし、詩藻と呼びたくなるような文体、どこか哀愁を帯びた耽美的な雰囲気は、他の作家には決して出せない味わいがある。
 思いがけず親戚の遺産を相続し、不慮の事故から回復したことを契機に、大学での職を辞め、亡き母親の故郷クリアウォーターへと戻ったハリー・ディーン。彼は愛するシーリアが突如として人妻になっていることを知り、愕然とする。やがて彼の元には悪意の込められた手紙が届けられ、街を謎めいた徘徊者が行き交う。そして人が死ぬ。
 時折ディーンの頭の中へと蘇る、幼き頃の記憶の断片がまことに素晴らしい。現在となってはありふれたオチのミステリかもしれないが、真に美しい文章で描かれたサスペンスとして一読の価値あり。

 

幽霊の2/3 (創元推理文庫)

幽霊の2/3 (創元推理文庫)