FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ウォーター/クルスティアン・テーデ監督

 ドイツのホラー映画。監督や作品については全く予備知識がなく、レンタルビデオ屋で衝動的に借りた。理由は、あらすじがいかにも当方好みのゴシックホラーだったから。「とんでもない屑だったらどうしよう」などと不安を抱えながら見たが、これは意外な拾いものだった。
 ゴンガー。それはこの海辺の田舎町に伝わる悪霊の名前だ。干潟で無残な死を遂げたものは、このゴンガーと化して戻り、加害者達の二世代後の人間に復讐する。
 フィリップは、祖父が遺した広大な館を相続するため、故郷へと車を走らせていた。両親が惨たらしく死んだ、忌まわしい記憶のある屋敷……だが借金を抱える身で、背に腹は代えられない。町で、フィリップは懐かしい幼馴染みと再会する。だが、幼馴染達は、目隠しをした幼い少年の夢(少年は、全身が濡れている)に苦しめられながら、一人、また一人と生命を失っていく。それも、まったく水気のない陸上での溺死という異様きわまりない状況で。彼らの祖父達、あるいは母親は、なにかを知っているはずなのに決して口を開こうとしない。
 フィリップと、幼馴染の一人であるヘルマは、少年がゴンガーであり、彼らの祖父達が過去にしでかしたなにかと関わりがあるのではないかと睨み、調査を始める。旧友達の死は、フィリップの両親の惨死とも関わりがあるようだった。
 被害者の大部分が「溺死」なので、ホラー映画でありながら、ほとんど血や内臓は出てこない。だが、なにか起こりそうでありながら、なかなかなにも起こらない描写の積み重ねは、見るものにじりじりとした焦りや恐怖を抱かせる。
 「親の因果が子に報い」的なテーマや、霧や浸水など水気を強調した恐怖場面は、日本のホラー映画ファンにも受け入れやすいはず。ラストにはひねりもあり、前述の焦燥感を抱かせるような描写のうまさと合わせて評価が上がった。
 正統派のゴシックホラー映画と言えるだろう。ゴシック以外のホラー映画ファンにもちょっとお勧め。この種の映画がお好きならば、見て損はしないはず。