FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

レースリーダー/ブルノニア・バリー

レースリーダー (ヴィレッジブックス)

レースリーダー (ヴィレッジブックス)

 もう一度、最初から読み直してから、頭の中を整理してから感想文を書いた方がいいのかもしれない。けれど、この不思議な、混沌とした印象を抱えている読了直後の今のうちこそ、感想文を書いてみたくて、ペンを取った(キーボードに指を置いた)
 読んでいる最中、頭をよぎったのは、シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』やジョン・フランクリン バーディン『悪魔に食われろ青尾蠅』といった神秘的な作品群だった。この『レースリーダー』には前述の作品ほどの完成度はないが、精神的に危うい女性が紡ぐ、どこか病的で美しい物語として印象に残る。好きな読者、嫌いな読者がかなりはっきりと別れる類の小説で、私は好きだ。
 レースの編み目を見ると、未来が読める。セーラムの名門ホイットニー家の女達の中には、時折そんなレースリーダーが現れた。ホイットニー家の歴史の女性の中でも、レースリーダーとして強い力を持つエヴァが失踪した。大おばとして強くエヴァを敬愛するタウナーは、十五年ぶりに故郷の土を踏む。十七歳の頃に、逃げ出してきた町へ。タウナーの精神は不安定で、様々な事情から欠落している記憶がある(えっ、今タウナーはなんて言ったの。誰が死んでて、誰が生きてるですって?)
 だから登場人物も、読者でさえも、語り手として大きな地位を占めるタウナーを言葉を信用できない。最後に明かされる真実はかなりありふれたものだが、ここに至るまでに物語を包む曖昧な雰囲気には、はまるものは泥沼にはまるようにはまるはず。
 作者はタウナーをヒロインとする二作目を執筆中というらしいが、あのオチで一体どんな風に続けるのか、大変楽しみである。
 余談だが、この『レースリーダー』、最初は自費出版で刊行して、大きな出版社の目にとまり、メジャーデビューしたとのことだ。読んでいないのにこんなことを言うのは恐縮なのだが、ドラマ化もされた日本の天野節子『氷の華』に経緯が似ているようだ。

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

悪魔に食われろ青尾蠅 (Shoeisha・mystery)

悪魔に食われろ青尾蠅 (Shoeisha・mystery)

↑脆弱で、儚くて、歪んだような美しさを持つ物語達。