FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

おさがしの本は/門井慶喜

おさがしの本は

おさがしの本は

 犯罪が出てこなくとも、ミステリ小説は成立する。かといって、内容が「日常の謎」というわけでもない。テーマは本探し。それも失われた久しい幻の本やら、呪いがかかっているかもしれないうさんくさい本やらは出て来ず、おそらく実在するであろう(だよね?)書物が扱われている。
 市立図書館のレファレンスカウンターに勤める主人公の元に、「本を探してほしいという依頼、あるいは命令がやってくる→主人公達が数少ないヒントを元に、正しい本を捜し出す」というだけの短編集なのだが、これが不思議と面白い。きちんとミステリになっている。筆者に小説家としての地力があるのだろう。下手な作家がやったら、ただの知識自慢で目も当てられない。
 ベストは「図書館滅ぶべし」。やたらと難解そうな問いに対し、用意されていた答え……この落差、笑いながらもついつい納得してしまうものである。うちの近所の図書館にはもっとあるぞ。
 ディレッタンティズムが鼻につかないわけでもないが、やはりこの個性は稀有。
 特異にして、そしてミステリファンには楽しい一冊。