FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ホーンテッド/ナチョ・セルダ監督

ホーンテッド [DVD]

ホーンテッド [DVD]

 ロシアを舞台にした幽霊屋敷映画。
 ホラー映画の中で、おそらく類似するタイトル作品が山のようにあることだろう。そしてタイトルの類似する作品の大半が同じテーマを扱っているだろうが、このナチョ・セルダ監督の作品もまた「憑かれた家」を扱ったホラー映画である。
 ロシアの田舎。生まれて間もない双生児の前で、若い母親は惨殺された。犯人ははっきりとしなかった。四十年の後、アメリカから一人の女性がロシアを訪れた。双生児の成長した姿、いまやシングルマザーでキャリアウーマンとなった双子の片割れ、マリーだ。彼女が相続する権利がある農場がロシアにあると聞かされた彼女は、母の惨殺の謎や自分のルーツを探るために、アメリカでの家族を残して旅立ったのだ。
 彼女が相続できると聞かされた農場には、かつて惨劇が起こった現場である館も含まれていた。母が死んで以来、手入れするものはいなかったから、いまや廃墟だ。案内人に裏切られ、置き去りにされたマリーは途方に暮れる。農場は川に囲まれていることから、「島」と呼ばれる土地だった。しかも橋が落とされている。おそるおそる廃墟に足を踏み入れた彼女が見たものは、彼女自身のドッペルゲンガー(ゾンビ風)と、そして双生児の兄ニコラスを名乗る男だった。しかもドッペルゲンガーは、それぞれ彼らの死ぬときの姿をしているという。
 河の水が彼女の行く手を阻み、館や農場から脱出することができない。そして館では恐ろしいドッペルゲンガーが、彼女と彼女の兄を名乗る男を襲う。ドッペルゲンガーの肉体が傷付けば、マリーとニコラスの同じ部分も傷を負うから、うかうか殺すこともできない。
 双生児、そして時間を隔てた自分自身という「分身」を強調したホラー映画。過去の殺人事件、謎めいた肉親、廃墟、分身、いまだまとわりつく邪悪なものの存在……という良きゴシックホラーになりそうな素材を集めておきながら、どれもが半端に終わった印象あり。ことにこの分身の部分をもっとうまく活かせたのなら、幽霊屋敷というありふれた題材の中でも個性ある作品になったのではないかと惜しまれる。
 端的に言えば凡作だが、映像は美しい。終盤での動物を使ったグロテスクな部分はちょっといい。最後の最後で出てくる、ある人物の決意にはびっくり。そんなにあっさりとしていていいのか。
 メインには据えられていないものの、小道具としてマトリョーシカをはじめ、妖しい雰囲気の人形がそこかしこに出てくる。