FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ミラーズ/アレクサンドル・アジャ監督

 キム・ソンホ監督『Mirror 鏡の中』のハリウッドリメイクである。ただし火災に見舞われたデパートを舞台にしていることと、主人公が同僚を誤射した警察官(この『ミラーズ』では停職中だが、キム・ソンホ監督の作品の方ではすでに退職していたかと思う)以外、ストーリー展開はほとんど違っている。
怪奇現象の源となるものも違っている。映像は遙かに『ミラーズ』の方が洗練されているが、こちらはどうも内容が陳腐、これならば『Mirror 鏡の中』の筋をそのままなぞった方が良かったのではないかと思わせる。韓国製のホラー映画があまりいいと考えたことがない身だが、あれは秀作だった。
 元ニューヨーク市警刑事だったベン。彼は一年前に誤って同僚を射殺し、停職処分となった。妻子と別居し、妹のアパートに転がり込むながら、酒浸りになる日々。だが彼には酒を断ち、幸福な家庭生活を取り戻そうと希望を抱いていた。
 ある日、ベンは五年前の大火災でほとんど廃墟と化した元デパートの夜警の職を得た。デパートには美しく巨大な鏡が無傷のまま残っていた。ベンの前任の夜警がこの鏡にひどく執着していたという。やがてベンはデパートの中でおぞましいものを見る。それはデパートの中にとどまらず、デパートの外でも、ベンや彼の大事な人間を襲うのだ。
 話としては、『Mirror 鏡の中』の方がいい(特にキリスト教圏以外の人間には)のだが、舞台となるデパートに関しては、この『ミラーズ』の方が圧倒的に美しい。かつての建築物の壮麗さと大火災の酷さの双方をうかがわせる作りで、灰色の石像を思わせる、焦げたマネキン達がたいそう美しい。この舞台の見事さだけは、他のホラー映画にはちょっと見当たらない。
 終盤で、いきなり主人公によって渦中に巻き込まれてしまう某登場人物が気の毒で仕方がない。あの展開には、思わず画面を見ながら「おいおい」と突っ込んでしまった。


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