FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

愛犬をつれた名探偵/リンダ・O・ジョンストン

愛犬をつれた名探偵 ペット探偵 1 (RHブックス・プラス)

愛犬をつれた名探偵 ペット探偵 1 (RHブックス・プラス)

 伏線、伏線、伏線ッ……!
 犯人が明かされる場面で、思わず叫んでしまった。いやしかるべき前振りがあればその犯人でもいい。だが伏線らしきものが一切なく、しかも犯人だと分かった途端、そいつの人間性がさっぱり変わってしまうのはいかがなものか。
 のっけからこんな文句で書き出してしまったが、このペット探偵の第一作、『愛犬をつれた名探偵』はとっても面白かった。唯一にして最大の欠点が、謎解きの部分である。素人探偵の調査の様子もしっかりと描写されているように見えるし、容疑者達の書き分けもしっかりできているように感じられるのに、いざ真実を知ると腰から力が抜けていくような、悲しいミステリだ。
 三十代のケンドラは、有能な女性弁護士だった。なにものかに陥れられ、弁護士資格を停止させられるまでは。高給取りから一気に転落、自宅さえ借家人を置かなければならず、とりあえず友達に紹介してもらった日銭稼ぎのペットシッターの職を始めることとなった。濡れ衣を着せられ、高い社会的地位から転落したことで、誰が本当の友達だったか分かることとなった。映像プロダクションを経営するカールは、ケンドラが弁護士だったとき、良きクライアントだった。今でも良き友人だ。ペットシッターを始めると、彼のペットを任されることとなった。だがカールが殺され、ケンドラには殺人者の容疑もかかることとなった。
 ケンドラはカールのため、そして自分の容疑を晴らすため、調査を始める。もちろんペットシッターの職を頑張りながら。ニシキヘビに死んだ鼠を餌としてやらなければなかったり、そのニシキヘビを自分の着たジャケットのポケットで温めなければならなかったり(首にも巻いてぶら下げた)り、子供の親権争い並の熾烈さを持つ、離婚した夫婦の「どちらがペットの犬を連れていくか」の争いに、法律家だったときの知識を駆使して依頼人に助力したり……控え目ながら、また元警官の私立探偵ジェフとのロマンスもある。
 ケンドラはかつての同僚や裁判官、さらに法曹家ではない友人を含め、一人一人に疑いの目を向けていく。しかし真犯人を明かされてみると、悪い意味で「えっ」と言いたくなる。
 ミステリ部分を別とすれば、ランダムハウス講談社から出版されているコージーミステリのシリーズの中で、屈指の面白さを誇る。