FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ドールハウスの夢/V・C・アンドリュース

ドールハウスの夢 (扶桑社ミステリー)

ドールハウスの夢 (扶桑社ミステリー)

 『屋根裏部屋の花たち』を第一作とする、「ドーランギャンガー・サーガ」の五作目にして、前日譚である。『屋根裏部屋の花たち』では美しい少年少女を苦しめる鬼さながらの祖母として出てきたオリビィアを語り手として、彼らの家のまつわる最大の秘密を描いている。
 長身でいかついオリビィアは、若い頃から自分を美しくないとわかっていた。だから美男で大富豪のマルコムが求愛してきたときには、夢のように感じられた。マルコムは、オリビィアを妻とし、大邸宅フォックスワース・ホールの女主人とした。しばらくは有頂天だったオリビィアは、間もなくしてマルコムの本当の姿に気付いた。彼は、幼い頃に家を出、今は死んだ母コリーンに取り憑かれた男だった。マルコムがオリビィアを配偶者に選んだのは、まるで華やかではなく、浮ついたところのないオリビィアが、ちょうどコリーンの対極にあるからだ。やがて悲劇は起きる。マルコムが憎む彼の実父ガーランドが、若く美しい二度目の妻アリシアを連れて、フォックスワース・ホールに帰ってきたとき。アリシアはコリーンによく似た女性だった。
 あらすじだけを書き出してみると、なにやら『源氏物語』を彷彿とさせる話だ。
 この物語のラストが、『屋根裏部屋の花たち』の序章へと続いている。オリビィアをヒロインとした、おおもと不幸な一代記であり、そして壮麗な館を舞台にした愛憎劇である。語り手のオリビィアは、頭の良さも意志の強さも感じさせるのに、こんな家(こんな夫)のために一生を浪費してしまったことが惜しまれる。しかしこの小説を作者、おそらく書かれたであろう年代を考えたとしても、彼女は驚くほど旧弊な男女観の持ち主で、それが悲劇の一因となったと感じられる。
 解説を読んだ瞬間に浮かぶ「本当にV・C・アンドリュースが書いたんだろうか?」という疑問を抜きとしても、面白いお話だった。他の「ドーランギャンガー・サーガ」に目を通していなくとも読めないことはないが、裏話のようなものなので、第一作目の『屋根裏部屋の花たち』を読んでいた方がよほど楽しめる。
 頭が良く、忍耐力があり、性格的にある種の力を持つ女性が、鬼になってしまうまでを描いた小説。この陰湿さ(オリビィアもマルコムも陰湿……)、むしろ日本の読者の方に受けるかもしれない。