FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

屋根裏部屋の花たち/V・C・アンドリュース

屋根裏部屋の花たち (扶桑社ミステリー)

屋根裏部屋の花たち (扶桑社ミステリー)

 「ドーランギャンガー・サーガ」の第一作目だが、このシリーズはこの巻だけで良かったような気がする。この第一作目と、第五作目にして番外編『ドールハウスの夢』は大きな館を舞台にしたゴシックロマンだ。
 一九五〇年代のアメリカ。ドーランギャンガー家の四人の兄妹は、その完璧な美しさのためドレスデン・ドールズと呼ばれている、豊かで幸福な少年少女だった。父親クリストファーが事故で死ぬまでは。そして娘や息子と同じく美貌だが、生活力が皆無である母コリーンが、彼らを連れて実家に帰るまでは。
 大柄でどこか狂信的な祖母は、ある理由から父母の婚姻を憎み、そしてその婚姻より生まれた子供達を憎んでいた。そして母コリーンは、四人の子供達を「少しの間だけ」と大邸宅の屋根裏部屋へと閉じ込めた。彼らはすぐにこの牢獄から解放されるはずだった。
 だが、幽閉の終わりはなかなか来ない。自由を渇望する子供達は、空想の力を持って過酷な現実に対抗しようとする。が、祖母の圧政はひどくなり、やがて裕福な生活に憧れる母も子供達を疎ましく思うようになりつつあった。思春期にあった長男クリストファーと、長女キャシーは、閉鎖的な環境の中で、互いを兄妹以上の存在と感じるようになった。
 ノン・シリーズの『オードリナ』と同じ、あるいはそれ以上に特異な雰囲気を持つゴシック小説である。まず自由が失われ、希望が少しずつ失われていき、母親の裏切りに気付き、絶望と憎悪に心を支配されていく少女キャシーの語りが絶品である。
 ただ改めて読み返してみると、一つの疑問を覚える。十代半ばのはずのクリストファーとキャシーは、ことにクリストファーはなぜこれほどたやすく母や祖母の言いなりになっているのだろう。数年に渡る監禁生活のトラウマや下の双子に危難が襲いかかるのを恐れて、という理由もあろうが、腕っ節をもって母や祖母に立ち向かったり、脱走を試みたり、もしくは腹いせのために使用人や客達に自分の存在を明らかにするという行動をなかなか取らないのがやや不自然な印象を受ける。
 陰鬱で独特の美しさを持つ小説。ジェフリー・ブルーム監督で映画化されており、設定や結末の一部が原作と違うのだが、そこそこ面白かった。