FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

口づけは暗闇の中で/キンバリー・ローガン

口づけは暗闇の中で (扶桑社ロマンス)

口づけは暗闇の中で (扶桑社ロマンス)

 母を殺された若き伯爵と、その殺人に関与した子爵夫人のロマンス……というあらすじから、「ミステリ要素ありか」とわくわくしていたが、子爵夫人が伯爵の母殺しにいかにして関与していたかは、序盤でかなりあっさりと明かされるので、拍子ぬけした思いだった。
 十九世紀初頭のロンドン。ロザビィ子爵夫人ディアドリは、若く美しい未亡人。貧民街出身であり、祖父と孫ほども年齢の離れた子爵と婚姻したディアドリに対し、社交界はいい見方をしなかった。ある日、妹エミリー失踪の手かがりを求めた現れたエリントン伯爵トリスタンを見て、ディアドリは愕然とする。ディアドリは幼いころ、かつて貧民街を仕切る悪漢バーナビーにより、掏りや万引きといった悪事に従事させられてきた。そのとき、彼女を含む一味が死に追いやった貴婦人ヴィクトリアは、トリスタンの実母だった。
 「ロマンス小説で蘇るディケンズの小説世界」とあるが、主人公二人の「上から目線」が気になるうえ、掏りやら拳闘家やら娼婦やら、出てくる貧民街の人々は、いかにも紋切型である。本気で十九世紀英国の貧しい人々の悲惨さを描かせたら、楽しめるロマンスも楽しめなくなるから、仕方がないといえばない。
 ヒーローもヒロインも、最初に超がつくほど典型的な造形で、「まあまあ」という表現以外、ちょっと見当たらないロマンス小説。