FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

その腕に抱かれて/サンドラ・ブラウン

その腕に抱かれて (集英社文庫)

その腕に抱かれて (集英社文庫)

 文庫本の裏表紙のあらすじとして、「ラブ・サスペンスの女王の最高傑作」とあるが、その言葉に偽りはないだろう。サンドラ・ブラウンの作品をすべて読んだことがあるわけではないのにこんなことを書くのはおかしいかもしれないが、凄く面白く、サンドラ・ブラウンの著作というに留まらず、ロマンス小説としての魅力と、犯人当ての楽しみ、その二つともが高いレベルに達している。
 ニューオーリンズの豪奢なホテルで、テレビ伝道師にして新興宗教の教祖ジャクソン・ワイルドが射殺された。頭と、心臓と、股間を撃ち抜かれて。彼は強烈なカリスマ性を持つ一方、猥褻物(と彼が見做したもの)に対する攻撃は凄まじく、敵をあちらこちらで作っていた。
 ワイルドが猥褻物と見ていたものの一つに、通販の下着会社『フレンチ・シルク』があった。事件を担当するオリンズ郡地方検事補ロバート・キャシディは、『フレンチ・シルク』のオーナーでデザイナーのクレア・ローレンツに捜査のため会いに行き、殺人犯人かもしれないにも関わらず、魅了されることとなる。クレアは狂気の母メアリーを養い、なにくれとなく庇護していた。
 クレアの潔白は、ロバートのみならず、読者にも明かされない。代わりに、クレアが事件に深く関わっていること、そして過去になにやらジャクソンと因縁があることが仄めかされる。
『フレンチ・シルク』の共同経営者で、漆黒の肌のファッションモデルにして白人の下院議員と不倫関係にあるヤスミン、極度の貧困から必死の思いで這い上がり、現在の富と権勢を失うまいとしているジャクソンの妻エリエル、実父ジャクソンの心ない仕打ちにずっと傷付けられてきて、現在はエリエルと愛人同士である息子ジョシュアなど、脇を固める人物達すべてがうさんくさい。
 実は刑事でも検事補でも、捜査する側の人間が容疑者である女性に惚れるという展開が嫌い(男女が逆の立場でもいや)なのだが、その点を差し引いても、いい作品だった。
 文庫化されるに従い『その腕に抱かれて』と改題されたようだが、最初の『フレンチ・シルク』のままの方が良かった。
 ロマンティック・サスペンスの最高峰。