FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

もう一度あなたを/リサ・クレイパス

もう一度あなたを (ライムブックス)

もう一度あなたを (ライムブックス)

 ジェニファー・セント・ジャイルズを読んで以来、ヒストリカルロマンスに興味が出てきた。しかしこの分野に不案内である上に、出版されている本の数が凄く多い。だから「十九世紀」や「英国」や「ヒストリカルロマンス」の言葉で検索し、世評の高い本を選んでみた。
 最初の一冊が、大当たり。無茶苦茶面白かった。
 十九世紀半ばの英国。十代終わりの美しき伯爵令嬢アリーンは、一歳年下の幼馴染の少年ジョン・マッケナと愛し合っていた。だが二人の間には、身分という大きな壁があった。アリーンは名門マースデン家の長女、マッケナは村娘の私生児の息子で、マースデン家の馬丁。周囲の目を盗んで会っていた二人だが、やがてアリーンの父親に関係が知られるところになり、この美少年と美少女は引き離されることとなった。マッケナを守るため、アリーンは本心を偽り、すがる彼を捨てた。そののちアリーンは更なる悲劇に巻き込まれ、身体的なハンディキャップを負うこととなる。
 やがて十二年の月日が経過した。アリーンの兄マーカスが当主となった伯爵家は、アメリカで大成功を収めている実業家を客として迎えることとなる。それがマースデン家への、そしてアリーンの復讐心を胸に秘めたマッケナの成長した姿だと知らずに。
 正直に言えば、この筋立てはエミリ・ブロンテ『嵐が丘』だ。あの傑作を、ぐっとメロドラマ調にすると、このリサ・クレイパス『もう一度あなたを』になる(「ヒロインが身体的ハンディキャップを負う」の部分はレオ・マッケリー監督『めぐり逢い』も入っている)。しかしよくできたメロドラマは、かくも面白く、ロマンティックになるものか、と思わず感心。エンターテイメントの分野において、「よくある筋立て」は傷にはならないのだ。
 頑固だが愛情深く誠実な兄マーカス、恋人の死に心を痛めている妹リヴィアといった脇役もいい。訳者のあとがきによると、マーカスはリサ・クレイパスの他の作品にも脇役としてしばしば登場しているらしい。
 メロドラマの大傑作。これ以降、これより面白いヒストリカルロマンスを読むことがないのではとちょっと心配になる。

嵐が丘(上) (岩波文庫)

嵐が丘(上) (岩波文庫)

嵐が丘〈下〉 (岩波文庫)

嵐が丘〈下〉 (岩波文庫)

↑破滅的な恋愛を描いたゴシック小説の傑作