FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

密室の如き籠るもの/三津田信三

密室の如き籠るもの (講談社ノベルス)

密室の如き籠るもの (講談社ノベルス)

 怪奇小説家にして怪異蒐集家、そして名探偵刀城牙升の息子にしてみずからも名探偵である刀城言耶。怪異を求めて日本全国をさ迷い歩く彼は、往々にして奇妙な事件に巻き込まれ、それを解決することとなる。奇怪な事件は、人間の世界の論理で完全に解決できるものもあれば、そうでもなく、なにやらもやもやとしたものが残る場合もある。彼を主役とした、初めての短編集である。
 雰囲気ゆえか、無茶なトリックもままあるこのシリーズだが、「首切の如き裂くもの」のトリックについてはのっけから「無理だよ……」と思った。マヨヒガ伝説と家屋消失の謎を描いた「迷家の如き動くもの」は解決時のシチュエーションと刀城の口八丁ぶり(そうでないと皆危ういのだが)がうまくマッチしており、好感を持った。「隙魔の如き覗くもの」のトリックは、「首切の如き裂くもの」ほどではないが、やはり無茶だと感じた。
表題作にして、もっともページ数の長い、「密室の如き籠るもの」はいい。なにせ刀城が、密室講義までしてしまう。富裕の家庭で起きた、密室殺人事件。被害者は当主の三人目の妻で、ひどく浮世離れたした性格であり、しかも狐狗狸さんのお告げを伝えるという巫女めいた不思議な力があるという。当主の息子である幼い少年は義母を恐れつつ、関心を失うことができずにいた。彼女は降霊術(狐狗狸さんのときも、この言葉を使っていいのか?)ののち、密室で殺される。
 真相はありがちなものだが、やはり悲痛、やはり面白い。ラストを締めくくる刀城言耶の手紙も、なんとも言えず落ち着かない、嫌なムードを醸し出している。縁起でもない。