FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶/マーサ・グライムズ

「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶 (文春文庫)

「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶 (文春文庫)

 英国を舞台にした、警視リチャード・ジュリーが活躍するシリーズの一冊。原作では四作目、邦訳では十一作目に当たる。殺人事件が起こり、リチャード・ジュリーとその部下、友人達の活躍によって謎が解決するという形を取っているが捜査の過程や謎解きと同じぐらい、ときにはそれ以上に、登場人物の心理描写や彼らの掛け合いに重きが置かれている。本格ミステリとコージーミステリのちょうど中間辺りに位置付けられそうなシリーズだ。
 楽しいシリーズだが、難を言えばタイトルと作品の内容の関連がやや乏しく、頭のとろい読者(例えば私)なんかは、「この巻、読んだかなあ」などと思うこともしばしば。
 シェークスピアのファンにはお馴染みの土地、ストラトフォード。この地を訪れたアメリカ人ツアー客の間で、事件は起きた。参加者の一人でもあり、富豪の身内でもある一人の幼い少年が誘拐されたのだ。やがて殺人事件が発生する。
 少年誘拐と殺人事件と並べると、ずいぶんと陰惨なイメージを与えるようだが、前述の通り、コージーミステリと呼べないこともない作品なので、決定的な暗さや絶望はない。誘拐され閉じ込められた少年の内面も、きわめて健気でタフなものである。
 シェークスピアを扱ったミステリのお約束の、「シェークスピアの正体論争」もちょっと出てくる。