ハネムーンの死体/リチャード・シャタック
- 作者: リチャードシャタック,Richard Shattuck,藤村裕美
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1998/05
- メディア: 文庫
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名前こそリチャードと男名前だが、作者は実際には女性作家である。はしがきでのアンソニー・バウチャーいわく「女性名義のミステリは売れないという不文律があった」ためドラという本名をリチャードに変えたようだ(クリスティーやセイヤーズ、ラインハートまで売れないなんてどうよ)
乾いたユーモアとどことなく感じられる洗練、そして登場人物が巻き起こすひっきりなしのドタバタからは解説で森英俊が指摘するよう、クレイグ・ライスを想像させられる。
なじみのホテルで結婚式を挙げたタイとスー。二人の蜜月は死体の乱入によってとんだ悲喜劇へと変貌した。警察へ通報するわけにはいかない。死体が見つかったのは親友の部屋だし、殺された男はその親友と仲が悪く、親友こそが容疑者にされてしまうから。
「なんとか穏便にことをすますため、死体をどこかで処分しよう」と穏便にはほど遠い考えを抱いた新婚夫婦と彼らの共犯者たちは、死体をあちこちと連れ回す(なぜか腐敗しないよ)。死体を乗せたままホテルのエレベーターは停止するは、一同で向かった鉱山では死にかけるは、彼らの隠匿活動は、穏便とはほど遠い大騒動へと発展していくのだ。
ユーモアミステリだからこそ許される死者の尊厳の犯されぶりで、いかにも嫌われものだとは言え、被害者もみずからの亡骸がどのような扱いを受けているか知ったら泣くことだろう。
ミステリというより、喜劇が好きな読者に。