FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

珊瑚の涙/ジャニータ・シェリダン

珊瑚の涙 (創元推理文庫)

珊瑚の涙 (創元推理文庫)

 相変わらず雰囲気の描写が絶妙。前作でも感じたが、このムードの作り方のうまさゆえジャニータ・シェリダンはずいぶんと得している。正直に言ってミステリとしてはよくあるタイプ……こうした背景で、こうした人間関係があるならば、動機はあれだし、犯人はこの人だよなと察しがついてしまうものだが、州ではなく準州だった時代のハワイの空気が素晴らしい。
ジャニス&リリー・シリーズの第二作。アーティスト達が住むアパートを舞台にした前作とはがらりと変わり、今度はハワイが舞台。もっとも一九五一年に書かれているから、現在のハワイとはまったく雰囲気が違う。
 ハワイ出身のジャニスは故郷に錦を飾ることとなった。彼女の書いた小説が映画化され、ハワイで撮影されることになったのだ。ジャニスの父親はハワイの固有の文化の研究者であり、彼女自身もこの土地に深い愛着を持っている。それに懐かしい知り合いも大勢いる。
 ところが彼女を迎え入れた知人の家には、一発触発の危うい空気が流れていた。人間関係に軋みが生じているらしい。
 アメリカからやってきた人間と、元よりハワイに住まう人々の対決、そしてハワイ特有の信仰への白人の好奇と蔑視、そして恐怖など、南国の楽園めいた国の、穏やかならざる面についてもよく書かれている。むせるような南国の雰囲気が感じられる作品。