FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ザ・マジックアワー/三谷幸喜監督

 これぞ映画。私はこんな話が大好きだ。
 日本の港町(町の名は守加護と書いて「すかご」)。クラブの支配人備後は、おそらく生涯最大のものであろうピンチを迎えていた。町を牛耳る天塩商会のドン、天塩の情婦マリに手を出してしまい、マリと二人揃って生命を取られかねない状況に陥ったのだ。備後は助かりたいばかりに、咄嗟に伝説の殺し屋デラ富樫を知っていると口にしてしまう。むろん大嘘だ。期日内にデラ富樫を連れてくるという口約束をしてしまった彼は、売れない俳優の村田を誘い出し、監督と自称して「伝説の殺し屋の演技をしてくれ。名前はデラ富樫」と依頼する。備後の態度を不審がるマネージャーの長谷川とは裏腹、すっかりその気になった村田は、タキシードに身を固め、内心ひやひやとしている備後とともに天塩商会に。かくて備後にも、村田にも、天塩にもコントロールできない大騒動の幕がきって落とされようとしていた。
 びっくりするほどありきたりの設定とストーリー展開なのだが、それにも関わらずびっくりするほど面白い。エンターテイメントにおいて、作り手の腕が腐っていない限り、あらすじの陳腐さは傷とならないのだと実感した。ナイフ嘗めの繰り返しギャグで死ぬほど笑った。
 特筆すべきは、脇役陣。ヤクザの黒川、ホテルのマダム蘭子、医師の清水、マネージャー長谷川、クラブの従業員の鹿間、会計士の菅原、そして某老俳優。皆が皆、完璧だ。創作物に涙や感動は求めないのだが、老俳優の出し方、そして主役達の絡ませ方にはぐっとくるものがある。
 見ていて痛快で、ラストはハッピーエンディング。これぞ娯楽というものである。
 邦画界におけるエンターテイメントの大いなる収穫。