待ち望まれた死体/キャサリン・ホール・ペイジ
- 作者: キャサリン・ホールペイジ,Katherine Hall Page,沢万里子
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 1996/05
- メディア: 文庫
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ヒロインも、舞台となる田舎町も、殺される容疑者もありふれた設定なのに、不思議と面白く、心に残る作品。
フェイスはニューイングランドの片田舎の牧師と恋に落ちたばかりに、生まれ故郷ニューヨークとそれまで積んできたキャリア(仕出し店の経営者)の地位を捨てた。しかし後悔はない……つもりだ。ハンサムな夫トムはまさに良妻賢母の男性版だし、一人息子のベンジャミンはすごく可愛く、まだ赤ちゃんなのにあまり手がかからない。これで文句を言えばバチが当たる。ただ時折大都市と仕事のことが脳裏にちらつくだけ。
そんなフェイスの前に転がったのは、死体。この町の娘、浮気っぽさと意地悪な性格とで知られるシンディだ。死体の第一発見者となったフェイスはそのまま調査人に早変わり、平和で静かだったはずの村に潜む謎を追うこととなる。どうやらシンディはふしだらだっただけではなく、脅迫者でもあったようだ(コージー・ミステリでは、脅迫者は自然破壊を進めようとする会社社長と同じような頻度で殺される)
こうあらすじを書いていて、恥ずかしくなるほどベタだ。あたかも、今までこのミステリのあらすじを何度となく書いていたかのような錯覚さえ感じる。しかしながら読了後の感想は大満足。この褒め方も平々凡々すぎて恥ずかしいぐらいだが、きめ細やかな筆致と嫌味のないキャラクターは実によく読ませる。多少ネタバレになるが、フェイスが犯人を突き止めたのち……この犯人もそこそこ意外性がある……フェイスは息子やある人物とともに監禁されてしまう。赤ん坊の息子はむろんこの人物も非力なので、フェイスの足を引っ張ると思いきや、そんなことはない。スーパーヒーローのような活躍こそしないものの、この人のこのときの振る舞いは実に自然、鬱陶しいこともなく、不自然なこともなく、思わずその描写に感心した。
もう一つ、結末部分でフェイスでもなく、トムでもなく、「意外な名探偵」が活躍するのだが、それは読んでのお楽しみ。
大満足。