FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

黒百合/多島斗志之

黒百合

黒百合

 余白の部分の多い小説である。といっても文字数が少なくて、ページが白い部分ばかりだと言いたいわけではない。想像力を働かせる余地の多い物語なのだ。例えば、「六甲山」の章に登場する某若妻。彼女は今なにを考えながら生活を送っているのか。そして過去に起きたある男の死について、現時点でどれほど真実を知っているのか。
 黒百合。美しくも禍々しいイメージの花である。そしてこの『黒百合』にはこの花そのもののように美しく、賢く、行動力に富み、時には犯罪行為すら辞さぬ女性が、実に意外な形で登場する。
 一九五二年、六甲山、夏。別荘地で、二人の少年と一人の少女が出会った。全員が十四歳。時が進むにつれ彼らの交友は深まり、やがて淡い三角関係へと変わっていく。彼らは詳しく知らなかったか、周囲の大人達は複雑な人間関係を抱えていた。やがて殺人事件が発生する。
 ありふれたトリックなのに、こうして仕掛けられると実に意外性が感じられた。真相を教えられ、思わず「あっ」と言ってしまったぐらい。これから読む人は、下手な先入観を抱かずに読むのが一番である。帯の「繊細な技巧が駆使された、工芸品のように美しい」という表現がまことによく似合う、傑作である。