スナッチ/西澤保彦
- 作者: 西澤保彦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/10/22
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 2回
- この商品を含むブログ (31件) を見る
22歳の若者が、気がついたら53歳に、と北村薫『スキップ』を連想させる小説だ。ひょっとした他にもたくさん同じ設定のお話があるのかもしれないが、無知なので知らない。しかもこの『スナッチ』では連続殺人事件が絡んでくる。
飄々としている。主役の奈路充生である。将来を約束した恋人の家族に会うはずだった。それが気がついたとき、彼の肉体の上を三十一年の年月が通り過ぎていた。しかも頭の中に、彼以外のあるものの意識が住み着いている(会話可能)。どうやら彼はこのものにずっと肉体を乗っ取られており、今ようやく充生本人の意識が蘇ったのだという。しかも「なにものかに突然肉体を乗っ取られ、長い年月が経ったのち、肉体本来の持ち主たるものの自我が目を覚ます」というのは彼だけではないらしい。あちこちにいるのだ。
あんまり動じてない。一応動じてはいるが、存外早く事態に馴染んでいる。最初に出てきたのはやや軽薄な若者だとしか考えられなかったが、二人……と表現していいのか?……で協力し、連続殺人の真相を追うに至っては大物かもしれない、とさえ感じさせる。
特殊設定型ミステリにしては読みやすく、西澤保彦の他の作品と比べても、そこそこの出来栄え。謎解きそのものもさることながら、「肉体を乗っ取るなにか」=異種生命体の虚弱さ、それゆえ異種生命体と一つ肉体で同居するがため食事を初めとして健康的な生活にやたらと気を回す充生の姿がおかしくも切なく、インパクトに残る。