FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ディオニュソスの階段/ルカ・ディ・フルヴィオ

ディオニュソスの階段 上 (ハヤカワ文庫NV)

ディオニュソスの階段 上 (ハヤカワ文庫NV)

 「ただのシリアルキラーものじゃない」と、マイミクが二人も褒めていたため、2008年の正月に読もうと思い、購入しておいた作品である。結局予定より十ヶ月ほど遅れた読んだが、やはり面白かった。
 欧州の大都市を思わせる街を舞台に、十九世紀末から二十世紀にかけて起きた、陰惨な連続殺人と、その連続殺人に関る人々を描いた物語である。この小説の中の世界は、現実の世界と同じく、ひどい貧富の差があり、障害者への蔑視があり、労働問題がある。そしてその中で必死に生きる人間達がいる。
 若きジェルミナル警部は、かつては敏腕警部として知られていた。だがある事件に端を発するトラウマから、薬物中毒となっていた。名家夫人の連続殺人の捜査を任されるものの、過去の悪夢と薬物への嗜癖に苦しめられる。彼はサーカス団の踊り子イグネースと知り合い、恋に落ちる。
 「この淫靡にして頽廃的な舞台は確かに魅惑的。でもさトラウマを持つ刑事に不幸な過去を持つ女、頭が切れて魅惑的な殺人鬼ってありがちじゃない」
 などと思っていたら、最終章「十六段の梯子」で思わずのけぞる。なるほど、ただのシリアルキラーものではない。「十六段の梯子」が終わってから、この連続殺人が始まるまでも、色々にあったんだなと思わせる。
 貴族の息子にして、畸形者を集めた施設を運営する、己も畸形の医師ノヴェールのキャラクターが出色の出来栄え。
 翻訳ミステリが好きならぜひお奨めしたい。これは傑作。おそらく2008年に読んだ翻訳ミステリの中で三本の指には入るだろう(今から面白いミステリがじゃんじゃん出てきたらそれはそれで嬉しい)

ディオニュソスの階段〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

ディオニュソスの階段〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)