FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ペガサスと一角獣薬局/柄刀一

ペガサスと一角獣薬局

ペガサスと一角獣薬局

 カメラマンの南美希風が、「世界の伝説と奇観」というシリーズのため、カメラマンとして世界のあちこちを回るうち、不可思議な犯罪に次々と巻き込まれる一冊。「光る棺の中の白骨」が群を抜いて面白く、次いで表題作の「ペガサスと一角獣薬局」がいい。
 相変わらずミステリ作家としてのアイディアが素晴らしい。当方が慣れてきたのか、下手だ下手だと言ってきた文章もやや読みやすくなったような気がする。南美希風の扱うシリーズを「世界の伝説と奇観」にすることで、物語にごく自然に奇跡や幻獣を絡めることも、また舞台を警察や、特に検視の制度があまり発達していない田舎にすることにも、成功している(「光る棺の中の白骨」は傑作だが、もし都会で起こっていて、もっと多くの、熟練した警察関係者が白骨を目にしていたら、死体のあれに気付くのではないだろうか)
 「光る棺の中の白骨」は、雄大な氷河の国ノルウェーで南が出くわした事件。密室の中から見付かった白骨は、語り手の男の元恋人かもしれない。密室の解決には唸った。見付かったものが死体ではなく、骨というところが大きなポイントか。これは傑作。
 「ペガサスと一角獣薬局」は、逃げ出したペガサスとユニコーンと、殺人事件の物語である。「ペガサスとユニコーンと言っても、きっと誰かが羽や角を普通の白馬に無理やり取り付けて……」などと小馬鹿にしていたら、不意打ちを食らう。本格ミステリのファンにとっては、嬉しい不意打ちだ。殺人事件そのものより、この幻獣にまつわる謎解きがいい。ユニコーンの正体については、証拠がなくただの美希風の仮説なのだが、これにはびっくりした。実際にこういうことがありうるのかどうかは分からないが、意外な上に説得力があった。
 というわけで、本格ミステリのファンには強烈にお奨めしたい一冊である。