FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

杉の柩/アガサ・クリスティー

杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 若く美しく誇り高い娘エリノアは法廷に立たされていた。恋敵メアリイ毒殺の容疑によって。エリノア白薔薇ならば、メアリイは紅薔薇。エリノアの叔母の家の門番の娘に過ぎないものの、富豪である叔母ローラも、そしてエリノアの義理のいとこにして恋人たるロディーも、あっという間にメアリイの虜となった。そして病床にあったローラは死に、メアリイは毒殺された。メアリイ殺しの容疑者としてエリノアは逮捕された。エリノアはメアリイの死を確かに願ったが、断じて殺していない。しかしエリノアの心は折れそうになっていた。エリノアを見守ってきた青年医師ロードは彼女の無実を信じ、名探偵ポアロに調査を依頼する。
 以前に読んだことがあるため、犯人そのものは忘れていたが、どういった立場の人間が犯人かは覚えていた。そして初めて読む読者、仮にそれが日頃ミステリをあまり読んでいない人であっても「この立場の人間が犯人だろうな」という察しがつくタイプの事件と真相である。
 真犯人が「この立場にいる人」という伏線がやや足らないように気がする。メアリイはロディーにもエリノアにも無関心、エリノアはロディーを熱愛しても熱愛されることはなく、ロードはエリノアがロディーを絶望的なほど強く恋していることを知っていてもなお、騎士のごとく愛し続けるという人間関係は絶妙。一昔前の少女漫画風の雰囲気に包まれた作品。
 『杉の柩』なる美しいタイトルは、シェイクスピア十二夜』から取られた。