FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ウォリス家の殺人/D・M・ディヴァイン

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)

ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)

 『悪魔はすぐそこに』ほどの傑作とは言えないが、それでもよくできた作品だった。 歴史学者モーリスと流行作家ジョフリーは幼馴染みであり、宿命的なライバル同士だった。二人の関係は複雑極まりないものだった。倣岸さを天才ゆえ許されてきたジョフリーは、かつてモーリスの恋人だったジュリアを奪い、己の妻として、彼女との間に二人の娘アンとジェーンをもうけた。一方モーリスは一度は別の女性と結婚したものの離婚し、一人息子クリスから誤解ゆえ憎悪を受けている。しかもややこしいことにアンとクリスは婚約していた。ジョフリーと彼の実兄ライオネルとの関係も難しいもので、二人は仲が悪かった。この緊張に満ち満ちた空気の中、ライオネルとジョフリーの二人が失踪した。凄まじい暴力の痕跡を残して。なにがあった。どちらがどちらを殺したのか。
 やがてモーリスはジュリアから、ジョフリーの伝記を書くように依頼される。
 『悪魔はすぐそこに』ではヒロインの一人、カレンが生き生きとしていて好感を持てたが、今回の小説に登場する女性達は強欲なのから、異常なほど神経質なのまで、個性がきつすぎてちょっと怖い。
 長い時間をかけて蓄積されていく人間関係の歪みを書かせてうまいこの作者が、いかんなくその才能を発揮したミステリ。どちらに生まれてきたとしても、思わず逃げ出したくなるような家庭がよく描写されている。
 どんどんとD・M・ディヴァインが翻訳されますように。

悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)

悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)