FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

復讐の女神/アガサ・クリスティー

復讐の女神 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

復讐の女神 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 クリスティー女史八十一歳のときの作品で、書かれた順番で言えばミス・マープルが登場する最後の作品である(『スリーピング・マーダー ミス・マープル最後の事件』は出版されたときよりずっと早く、第二次世界大戦のときに書かれているから)
 『カリブ海の秘密』の続編で、解説によると、『カリブ海の秘密』とこの『復讐の女神』と、もう一冊を含め、ミス・マープル三部作となる予定だったらしい(残りの一冊が書かれなくて残念だ)
 『カリブ海の秘密』で知己を得た大富豪ラフィールの死に、ミス・マープルは驚いた。しかし、もっと驚いたのはミス・マープルに富と手紙とを残していた。手紙にはこうあった。ミス・マープルを復讐の女神と見込んで頼む、ある犯罪の謎を解き明かして欲しいと。しかし肝心要の犯罪についてはなにも触れていなかった。
 首を傾げつつ、ミス・マープルは英国の美しい邸宅と庭巡りという現代の日本人にも受けそうなツアーに参加。やがて旧領主邸という優美な屋敷で、『マクベス』の三人の魔女を連想させる三姉妹と出会った彼女は、過去の闇に埋もれた殺人事件と向かい合う。
 「なにが謎なのか分からない」という、ヴェールを一つ被ったようなじれったさがいい。どこか朽ちた風情のある館に住まう三姉妹がいい。最後の最後で明らかになるある人達の正体がいい。
 本格ミステリとしての出来栄えが凄くいいとは言えない、クリスティーの作品群でも傑作とは言えないだろう、「だけど私は好き」とこっそりと呟きたくなるような地味な作品。
 『カリブ海の秘密』のネタバレが多々あるために注意。