耳をふさいで夜を走る/石持浅海
- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2008/06/17
- メディア: 単行本
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石持浅海の作品からは、それが正義や人間愛を謳ったものでさえ、そこはかとない異臭が漂ってきていた。では正義や人間愛とは正反対、「心の闇」を描いたものはどうか。さらにおかしな臭いがする。
理由が連続殺人犯を主役に据えているから、ではない。三人の女性を殺す決意をした男、並木が、逆にある女性から殺されそうになる。彼女からどうにか身を守った並木が、次々と殺人に手を染めている様子を描いているのだが、殺す奴にも殺される奴にも、読者に理解できる理屈を持っている人間が一人もいないのである。
正直に言って人語を話す宇宙人達を主役に据えた小説を読んでいるような気持ちだ。実はSFだったのか、これ。覚醒ってさ、覚醒ってさ、お前達はスーパーサイヤ人だったのかぁぁああ。
思わず錯乱してしまいたくなる。柄刀一『密室キングダム』とはまた別の意味で、最後まで読んだ自分を讃えたくなる。石持浅海は短編集『賢者の贈り物』以外はすべて読んでいるが、まず間違いなく彼の最駄作がこの『耳をふさいで夜を走る』だろう。
最高傑作には、ややためらいながら『顔のない敵』を挙げさせて欲しい。