冬そして夜/S・J・ローザン
- 作者: S.J.ローザン,S.J. Rozan,直良和美
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/06
- メディア: 文庫
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日本に生まれて良かったなあ。アメリカで高校生やるのって、それも地方都市でやるのって、すごく、ものすごく大変そうだから。
リディア&ビルシリーズの第八作、ビルとリディアが交互に語り手を務めるこのシリーズで、今回の語り手はビルである。単に語り手が彼であることにとどまらず、彼の過去や身内も出てくる。
晩秋のニューヨーク、ビルは久方ぶりに甥のゲイリーと再会した。彼が暮らしていた町ワレンズタウンから家出してきたからだ。一度は手元に置いたゲイリーは再び家出し、彼はゲイリーを探すため、ワレンズタウンへと向かう。保守的で、閉鎖的で、アメリカン・フットボールが盛んで、優れたアメフト部員たる高校生だったら、些細な悪事など平気で見逃されてしまう町ワレンズタウンへ。
「いくら町で盛んなスポーツの英雄だからって、所詮高校生の少年達じゃないか。学校内だけならまだしも、町の中全般でこんなに力持つことってあるか?」
首を傾げたものの、山崎まどかの解説で「地方の郊外都市ではありがち」、「日本の甲子園の比ではない」と聞き、頭を抱える。なんと息苦しい。周囲の人間もさることながら、当の少年選手達だって重荷に潰されそうなのではないか。
本書ではこの息苦しさ、歪みが引き起こした現在の事件、そして過去の事件が描かれる。物語の幕が下りても、問題は山積みなのだが、それがかえってリアリティを生み出している。
MWA最優秀長編賞受賞も納得の傑作。ローザンの代表作だけにとどまらず、今年も私立探偵ものの収穫の一つに上げられることだろう。