FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

冬そして夜/S・J・ローザン

冬そして夜 (創元推理文庫)

冬そして夜 (創元推理文庫)

 日本に生まれて良かったなあ。アメリカで高校生やるのって、それも地方都市でやるのって、すごく、ものすごく大変そうだから。
 リディア&ビルシリーズの第八作、ビルとリディアが交互に語り手を務めるこのシリーズで、今回の語り手はビルである。単に語り手が彼であることにとどまらず、彼の過去や身内も出てくる。
 晩秋のニューヨーク、ビルは久方ぶりに甥のゲイリーと再会した。彼が暮らしていた町ワレンズタウンから家出してきたからだ。一度は手元に置いたゲイリーは再び家出し、彼はゲイリーを探すため、ワレンズタウンへと向かう。保守的で、閉鎖的で、アメリカン・フットボールが盛んで、優れたアメフト部員たる高校生だったら、些細な悪事など平気で見逃されてしまう町ワレンズタウンへ。
 「いくら町で盛んなスポーツの英雄だからって、所詮高校生の少年達じゃないか。学校内だけならまだしも、町の中全般でこんなに力持つことってあるか?」
 首を傾げたものの、山崎まどかの解説で「地方の郊外都市ではありがち」、「日本の甲子園の比ではない」と聞き、頭を抱える。なんと息苦しい。周囲の人間もさることながら、当の少年選手達だって重荷に潰されそうなのではないか。
 本書ではこの息苦しさ、歪みが引き起こした現在の事件、そして過去の事件が描かれる。物語の幕が下りても、問題は山積みなのだが、それがかえってリアリティを生み出している。
 MWA最優秀長編賞受賞も納得の傑作。ローザンの代表作だけにとどまらず、今年も私立探偵ものの収穫の一つに上げられることだろう。