FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

笑酔亭梅寿謎解噺 ハナシがはずむ!/田中啓文

ハナシがはずむ! (笑酔亭梅寿謎解噺 3)

ハナシがはずむ! (笑酔亭梅寿謎解噺 3)

 田中啓文のこのシリーズを他の落語本格ミステリと隔てているのは、暴力や流血や吐瀉物や排泄物だ!他の落語絡み本格ミステリには決して出てこない。他の作品群には感じられぬ生々しさ、人間臭さだ。
 毎度のごとく、笑酔亭梅駆こと星祭竜二は難題の前に立ち尽くしている。彼自身が落語にマンネリを感じており、芝居の世界に惹かれていること。そして竜二も所属している梅寿の事務所、<プラムスター>が経営が行き詰っていること。おまけにまだ前座の身でありながら、梅寿にはある大名跡を継承するように命じられ、おまけに梅寿自身の健康問題も絡んでくる。
 ミステリとしての出来もさることながら……いやミステリとしての出来よりも芸道小説、そして竜二の成長小説として面白い。ミステリに泣かせの要素はいらない、ミステリとして売っているにも関わらず、ミステリとしての要素よりも泣きを初めとした人間ドラマの要素が強いと腹が立つが、これは面白かった。竜二のドサ回り→大名跡「星の家柿鐘」継承騒ぎ→ベテランとの落語対決→継承騒ぎの一連は、このシリーズ中もっとも盛り上がった流れではないかと感じられる。
 ミステリと人情噺との均衡がもっとも美しく取れた「佐々木裁き」がベスト。
 このところ面白い落語絡み本格ミステリをたくさん読んでいる。よい流れなり。