FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

オチケン!/大倉崇裕

オチケン! (ミステリーYA!)

オチケン! (ミステリーYA!)

 大倉崇裕と落語と言えば、すぐに落語雑誌編集者、間宮緑が活躍する『七度狐』、『やさしい死神』といった作品が脳裏に浮かぶ。これは落語研究会に所属する大学生達のキャンパスライフと推理を描いた、もう一つの落語シリーズである。
 東京都目白にある学同院。良家の子女が通うとして名高いこの学府だが、もう一つ大きな特徴があった。それはサークルの力がびっくりするほど強く、また学生達も驚くほどの熱意をもってサークルに打ち込んでいることだ。
 ……こんなにサークルにのめり込んでいる奴、体育会系以外で見たことないよ!っていうかあんた達、サークルの部室を得るために、なぜ違法行為にまで手を出すのさ!
 読みながら思わず突っ込んでしまう。
 大学生のキャンパスライフ(というよりサークル生活)、落語、そしてミステリという三つの縛りある中篇が二編、収録されている。ミステリとしての謎は、おおもとサークル同士の権力闘争の中からから生まれている。
 「幽霊寿期限無」。軽い気持ちで受験し、たまたま合格した学同院。新入生の越智健一はそうそうに落語研究会に引っ張り込まれた。落語研究会の二人……際立った落語の才と、茫洋とした人間的魅力を持つ岸と、優男にして行動力抜群の切れ者、中村……は、学同院において、部員が三人以下となったサークルは強制的に廃部なのだと語り、越智を落語研究会に繋ぎ止めておこうとする。しかし部室獲得を狙う『釣竿会』や『お笑い研究会』の存在により、彼のサークル活動は危険なものとなりつつあった。
 「馬術部の醜聞」。長い伝統と格式を誇り、全国的な知名度を持つ学同院馬術部。この馬術部の新入生の喫煙ビデオが撮影され、部長の丹波は大学に学同院馬術部の失墜を狙うスパイがいるのではないかと疑い始めた。
 なんとも言えず濃い面子(と謎)に取り囲まれた学生生活である。一ヶ月送っただけで息切れしそうだ。この作品は越智の珍妙な学生生活を描くことに重きが置かれており、楽しいことは楽しいが、ページの分量に比べて謎が薄い印象を与える。続編に期待したい。