FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

殺人展示室/P・D・ジェイムズ

 

殺人展示室 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

殺人展示室 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 文章に格を感じさせる代わりに重苦しい。
 ストーリー展開を決して急がないがゆえに、話の進行は時として苛々するほど長い。
 P・D・ジェイムズ御馴染みの気品・重厚・退屈のセットを、この『殺人展示室』もやはり持ち合わせている。これらを受け付けない人間は、ジェイムズに手を出さない方が無難だ。
 一九三〇年のロンドンでセールスマンが自己の身代わりにするためにホームレスを殺し、車ごと焼いた。彼は異様なほどの女好きが原因で破滅の淵に立たされており、身を隠す必要があったのだ。
 現在のハムステッド・ヒース。やはり車ごと焼き殺された男がいた。ただし無名のホームレスではない。名の知れた殺人事件に関わる博物館を創立した一族の次男、医師のネヴィルだ。彼は父親が興した博物館を嫌悪しており、兄妹と違い、存続に反対していたのだ。
 富と名誉を持つ一族の内紛という古典的な題材を扱い、ミステリとしてそこそこ成功させている。彼女の代表作とは言えないものの、ファンは十分楽しめる。