FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

神話の島/久綱さざれ

神話の島 (ミステリ・フロンティア)

神話の島 (ミステリ・フロンティア)

 作者名のルビは「くつな・さざれ」と読む。2001年に長編『ダブル』で第一回ムー伝奇ノベル大賞を受賞している。作者の作品を読むのは、この『神話の島』が初めてなのだけれど、本書もまた伝奇の色が強いミステリである。
 高校生の涼は、伯父の家で世話になっている。両親は彼が幼い頃、彼を手放し入信している新興宗教のため離島、御乃呂島へと渡り、そこで生命を失った。涼が皆に内緒でこの島へと渡ったのは、亡き両親に娘、つまりは彼にとっては妹がいると聞かされたからだ。
 御乃呂島は日本神話に強い関わりがある島で、いまや老人ばかりが暮らしており、ひどく排他的だった。涼はなんとか六歳の妹、真名に接触しようとするが、おぞましい事態が発生した。外部とは連絡が取れなくなった上、連続怪死事件が起きる。しかも疫病が発生し、島を訪れたもの、島に住んでいたもの双方の生命を脅かすのだ。
 ジャンルで言えば伝奇サスペンスといったところ。登場人物は類型的だし、神話、日本軍の幻の宝、新興宗教といった小道具もありふれているのだが、エンターテイメントとしての素直な面白さがあった。殺人事件よりも、マラリア絡みの部分(次は誰が倒れるのか、倒れた人は助かるのか)の方が数段怖かった。ただの「軽薄で鬱陶しい女」にされがちな「旅行好きの若いOL」が比較的しっかりとした娘に描かれているのも好印象。