FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

マウス・オブ・マッドネス/ジョン・カーペンター監督

 

マウス・オブ・マッドネス<dts版> [DVD]

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 映画監督の名前別の索引も作っておけば良かったなあ……。

 物語は精神病院で幕を開ける。拘束衣を着せられ、暴力的な振る舞いをするがゆえに看護師達に手荒に取り押さえられる男。彼はみずからの経験を手助けしたいという医師に語る。
 彼、トレントはかつて保険会社専門のフリーの調査員だった。しかもどんな詐欺師をも見破る凄腕の男として、保険会社の人間達に一目置かれていた。彼の破滅の発端となったのは、ある出版社からの依頼だった。ホラー作家サター・ケインが失踪した。サター・ケインは「スティーヴン・キングよりよほど売れている」ばかりではなく、読んだものが暴力的になる傾向があるいわくつきの作家だった。これまでの経験より培ってきた観察力と発想からトレントの居場所を見抜いたトレントは、編集者リンダとともにある田舎町へと向かう。
 古き良きアメリカを感じさせる典雅な田舎町。だがそこはあまりにもサター・ケインの描く小説にそっくりだった。
 ばっちり。すごく面白い。血や内蔵が出てくる場面はさしてないのだが、それでも怖くて気持ち悪い(そしてそこが快感)。
 天才的な創作家、しかもそれに触れたものが暴力性や狂気を帯びるという設定は、彼の後の作品『世界の終わり』にも通じるものがある。そしてあちらは約六十分と短い分だけすっきりとしたまとまりの良さを、こちらは約百分とそれより長いだけ楽しいストーリー展開を見せてくれる。
 あらすじには直接関わりのないのだが、田舎道で見かける少年の自転車の車輪に折れて曲ったジョーカーのカードが挟まっているという細かな演出も美と不気味さを感じさせた。
 こうして書き出してみると、話自体はありふれたものだけれど、名人の手にかかれば恐怖も詩情も一味違う。
 傑作。