FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

神学校の死/P・D・ジェイムズ

 気品・重厚・退屈を併せ持ついつも通りの彼女の作品である。そして相変わらず、情景や建物や室内の描写が途方もなく美しい。
 舞台はサフォーク州にある、吹きさらしの荒涼とした崖の上にあるエリート主義の神学校。砂地の断崖は毎年少しずつ海に侵食されている。物語の最初の死者である神学生は、砂に埋もれて死ぬ(第一部のタイトルは「殺人砂」)。生命を失った青年を発見し、神父の勧めで当時の発見の様子を手記に残そうとした看護師……夫も子もずっと昔に失った初老の女性……は、いつか高潮が押し寄せてきて、学校ごと自分たちすべてをさらっていく光景を思い浮かべる。そしてその手記のせいか、彼女もまた殺人者の手にかかり、生命を失われる。
 アダム・ダルグリッシュ警視が調査に乗り出したのは、死んだ神学生の養父が大企業家だったためである。養父は事故死との公式見解を決して信じようとはしなかった。神学生や看護師の死ばかりでなく、この神学校そのものが教会の権力により、閉校の憂き目に遭うかもしれないことだった。
 P・D・ジェイムズのファンがこれを言ってはいけないのかもしれなが長い。あと百ページ短ければ秀作と言えただろうに、惜しくてたまらない。とにかく情景描写も巧みなミステリ。