FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

狡猾なる死神よ/サラ・スチュアート・テイラー

狡猾なる死神よ (創元推理文庫)

狡猾なる死神よ (創元推理文庫)

 なんの予備知識もない作家の新刊を買うには度胸がいる。そしてその度胸が報われたときには、すでに何冊も読んだことのある作家の新刊が面白かったときとはまた違う楽しみがある。それは「新刊が出るのが待ち遠しい作家」がまた一人増えるという楽しみだ。
 印象的な赤毛と、二十八歳にしてすでに大学助教授の地位を持つスウィーニー。大事な人間を死という形で奪われ続けてきた彼女の研究対象は墓石芸術だ。友人より珍しい墓石……舟に横たわる若き裸女と微笑みながら見下ろす死神……の話を聞かされた彼女は、友と共にある村へと向かう。そこはかつて画家や彫刻家など芸術の才ある人間が集ってきた、風変わりな村だった。墓石の謎と芸術村の過去を追うスウィーニーの前で連続殺人事件が発生する。
 文章、特に風景描写が端麗なミステリには点数が甘くなるきらいが当方にはあるけれど、この作品はまさに文章、特に風景描写が端麗なミステリにあてはまる。詩や絵画、そして彫刻など死をモチーフとした芸術、その中でもやや耽美的な色合いを強く持つものたちがエピソードとしてひんぱんに引き合いに出される。言うことがない。
 ミステリ部分に関して言えば、「いくらなんでもこんな間違いをするものがいるだろうか」と思わないでもないが、一応言い訳はしているのでなんとかオーケー。
 アンナ・マクリーン『名探偵オルコット』と並び、次回作が楽しみである。