FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

グリンドルの悪夢/パトリック・クェンティン

グリンドルの悪夢 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

グリンドルの悪夢 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

 Q・パトリック名義で出版された作品。Q・パトリックのミステリは多くの場合が合作で、しかもメンバーの作家は時折入れ替わっていた。この『グリンドルの悪夢』を書いたのは、リチャード・ウィルスン・ウェッブ&ルアリー・ルイーズ・アズウェルだ。
 グリンドル樫にコンドルが留まると盆地に死が訪れる。そんな不吉な伝説が流れる片田舎グリンドル。この眠ったような盆地に、伝説以上に不吉な出来事が起こった。まずは愛玩動物として可愛がられている生き物たちの失踪。それから貧しい家の、幼い少女が行方不明となる。それはやがて慄然とするような狂気の連続殺人事件へと変わっていく。
 小動物の虐待と、それがエスカレートした形での殺人事件。十分な現代性を感じさせる内容だ。だが十分な現代性があるだけあって、犯人が初めて出てきた瞬間、現代の読者は「ああ、こいつか」と分かってしまうのである。論理もへったくれもないにも関わらず。多分、この文章を読んでいる皆さんの六割強も分かるはずだ。
 筆致は力強く、サスペンスフルな雰囲気は十分に醸し出している。だがひねりやら意外性やらはどうにも不足していた。