イスタンブールの群狼/ジェイソン・グッドウィン
- 作者: ジェイソン・グッドウィン,和爾桃子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/01/24
- メディア: 文庫
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読んでいて、脳裏にちらついていたのはピーター・ラヴゼイ『帽子屋の休暇』だった。あれはヴィクトリア朝、イギリスの避暑地ブライトンの輝くような美を絶妙な筆致で描き出したものだった。ただし、ミステリとしては凡庸なものだった。
この『イスタンブールの群狼』はオスマントルコ帝国時代のイスタンブールの複雑な美を見事な筆で描き出したものだ。そして、やはりミステリとしては凡作だった。
十九世紀のオスマントルコ。切れ者の白人宦官オシムは母后(帝国の最高権力者たるスルタンの母親)からはハレムにおける宝石盗難及び美女殺人事件の調査を、近衛新軍の指揮をとる司令官からは士官殺人事件調査を命じられる。四人の士官が惨殺された事件の裏側には、トルコ近代化のために存在を抹消されたイェニチェリの姿が感じられた。
イェニチェリ。かつてはオスマントルコ帝国最強の歩兵軍団だった彼らは、抹殺されたときにはもう時代遅れで、緩んだ軍規のためかならず者となって人々に迷惑がられる存在となっていた。
舞台や主役の設定などに目新しさを感じさせるものの、後の展開は美女との情事、権力者の陰謀、はみ出しものとの友情とありふれたものである。しかも物語全体のテンポがいいとはいいづらい。
正直に言えば、眠かった。
本文より、訳者のあとがきである「君府雑録」の方がはるかに面白いのはどうかと思う。