FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

妖精ディックのたたかい/キャサリン・M・ブリッグズ

妖精ディックのたたかい

妖精ディックのたたかい

 サイトの名前にもつけたように、一時期妖精伝説に激しく傾倒していたことがある。
このような優れた妖精小説に出会うと、その熱が再び増してきそうだ。
 十七世紀半ば、人間のすぐ傍らに魔女や亡霊や妖精が存在した時代。イギリスはコーンウォールの小村ウィドフォードの無人の屋敷にホバティ・ディックという妖精が住み着いていた(妖精といっても、現代日本の人間が咄嗟に想像するような、小さくて薄い羽根を持つ優美なものではなく、もっと荒々しく、土と森と闇の香りがする自然の生き物である)。彼は家と人とに仕えるのが役目、しかし屋敷にかつて住んでいた一族は没落して出て行き、彼はがっかりとしていた。やがてそこに都会の人間が幽霊を連れて(金袋を放さない、文字通り金の亡者)引っ越してくる。屋敷に住まう人間達には、彼の姿を見ることはできない。しかしなにかを感じることはある。
 これは妖精ディックの主人一族の忠誠、献身、そして主人一族にもいる気に入らない奴への嫌がらせを描いた作品である。
 基本的には心清き人が幸福となる童話なのだが、細部がしっかりとしており、全体を流れる雰囲気がおそろしく力強い。卓越したストーリーテリングにより最後の「ほうき、緑の服、赤の服」の選択にも説得力が感じられる。
 妖精を題材にした創作物では、波津彬子『うるわしの英国シリーズ3 空中楼閣の住人』と並び、お気に入りである。
 幻想文学の傑作。

空中楼閣の住人 (Flower comics special―うるわしの英国シリーズ)

空中楼閣の住人 (Flower comics special―うるわしの英国シリーズ)