FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

魔女が愛した王子/トレイシー・マクニッシュ

[rakuten:book:14150265:detail]

 大満足!
 何度か書いているのだが、比較的没個性になりがちなヒストリカルロマンスの世界において、よく個性を発揮している。古城で暮らす、酷薄な解剖学者の父を持ち、村人から魔女として恐れられているというヒロインの設定が秀逸だ。しかもヒロインが最初城に運び込まれたヒーローを美しい死体だと思い込み、それでもなお惹かれてしまうという「出会い」が新鮮だ。こう書くとなにやら「白雪姫」の男女逆転バージョンのように感じられる。ダークファンタジーのような出だしだが、パラノーマルの要素はない。
 父親からの冷遇と、村人からの恐怖と嫌悪の視線に耐えかねたヒロイン、オルウィンは森の中の城から、美しい青年の死体とともに逃げ出した。しかし王子のような美青年エイダンは生命を失っていたわけではなく、意識を失っていただけだった。彼は目を覚まし、自分の館にオルウィンを連れていく。ロマンス小説の定石として二人は惹かれ合うが、公爵家の美青年エイダンにはすでに婚約者ミラがおり、さらに厄介なことに逃亡したオルウィンを冷たい激怒とともに父リースが追い回していた。
 この作品は2010年に出版されているのだが、それ以降トレイシー・マクニッシュの作品が邦訳されていないのは残念だ。特に作中でも頼もしい脇役だったヒーローの祖母カミーユを主役に据えた作品が読みたい。
 独特の雰囲気とロマンス小説の甘美さを兼ね備えた秀作。