FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

NO ONE LIVES ノー・ワン・リヴズ/北村龍平監督

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 ホラー映画か、ミステリ映画かと聞かれたら、しばし悩んだ挙句「ホラー映画じゃないかな」と答えるのは、殺しの場面がかなりえげつないからである。ミステリ映画が好きな人でも、ホラー映画に耐性がないとちょっときついだろう。ちなみに一部の登場人物の頭の中身がアレだとは言え、一応人間しか出てこない。
 金持ちの屋敷を狙い、主に窃盗などの犯罪を繰り返してきたと思しきチンピラ集団(ただし、平気で人の生命を奪うサイコ男が一人いる)は、窮地に陥っていた。狙った屋敷の住人が、彼らの思惑と違い早めに車で帰宅してしまったのだ。
 一堂で慌てていたところを、サイコ男が本来の屋敷の住人全員を射殺するという暴挙に出た。かくて彼らは、ちんけな窃盗団から一転凶悪な強盗殺人者になってしまった。当然、軋みの走るグループ。自分の落ち度を糊塗しようとしたサイコ男は、さらに最悪の選択をした。わざと交通事故を起こし、裕福そうな美男美女を監禁したのだ。
 しかし本当の惨劇はそこからだった。サイコ男が捕らえたのは、全米を震え上がらせている連続殺人鬼とその恋人だったのだ。しかも、自動車のトランクの中に、大富豪の令嬢……殺人鬼によって、パーティーに招いていた親しい友人を皆殺しにされた挙句、もう何カ月も監禁されている女性……を押し込めていた。
 そしてちんぴら集団VS殺人鬼VS令嬢の三つ巴の戦いが始まる。最後まで果たして生き残るのは誰か。それともタイトルで匂わせているように全員が死亡するのか。
 ちなみにちんぴら集団のグループの中でも力関係があり、意見の食い違いがある。一方で、殺人鬼に捕まった仲間を助けたい、殺された仲間の仇を取りたい、という動きもある。
 登場人物の中で出色の出来は、一応は救出されたこの令嬢で、連続殺人鬼に歪んだ形で愛され、皮肉なことにそれゆえ未だに生き延びてきた。ちんぴら集団に救出された直後こそ錯乱していたが、高い知性と理性は十分残っており(それが愛された理由だったのか?)、殺人鬼を殺すことを、そして生きて家に帰ることを切望している。たとえそれが、ちんぴら集団全員が殺人鬼に殺されている間に逃亡することになっても、である。
 最後の最後に生き延びたほんの少人数で、モーテルへと向かうシーン、そこからクライマックスまでの展開にはどきどきする。
 秀作。