FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

特捜部Q カルテ番号64/ユッシ・エーズラ・オールスン

 第三作『Pからのメッセージ』から、はっとするほど面白くなってきた『特捜部Q』シリーズ四作目。最高傑作の地位は、『Pからのメッセージ』から動かないが、この『カルテ番号64』もなかなか楽しめる。
 優生学の思想のもと、かつて様々な国が知的障害者と見なした人々に断種手術を行ってきた暗い歴史がある。デンマーク政府もその一つだ。だが当時の政府はそればかりではなく、倫理と道徳に逆らう(と判断された)人々に強制的に不妊手術を行い、思想や言動を矯正するため、ある孤島の施設へと送り込んでいた。十代の少女だったニーデも施設に送り込まれた一人だ。
 そして長い年月が経過したのち、施設と昔から深い関わりを持ち、移民問題に揺れる祖国の中で、他国民や他民族の血が一切混ざらぬ、心身ともに健康なデンマーク人に固執する医師クアト・ヴァズがニーデと再会したとき、ニーデの凄惨な復讐劇が始まった。
 現代のデンマーク。特捜部Qの面々は、八〇年代に多発している失踪者の謎に気付き、捜査を始める。
 ニーデの過去の悲惨さと、その過去を生み出したクアトの極端な……しかし、現在の状況では賛同者が大勢現れそうな思想との対比、また当時の関係者を次々と手にかけていくニーデの復讐の苛烈な日々と、クアトが送っている死に掛けている妻(クアトの思想に心から共感している)との穏やかな日々の、その落差が凄まじい。
 最後の最後で明かされるどんでん返しは、あまりうまく機能していると言い難いが、そこも大きな欠点とはならない。
 アサドとローセはシリーズの巻が進んでいるにも関わらず、ますます謎めいてきている。
 さあ、そろそろかつてカール達三人の刑事が巻き込まれた銃撃事件の真相が知りたい。