FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ラブド・ワンズ/ショーン・バイルン監督

 十代の少女が愛する少年を監禁する映画、という先入観から、他者とうまくやれない少女が思い余って、ストーカー的な犯罪に走るというストーリーを想像していたが、それは外れ、正統派……こういうことに正統派も異端もないかもしれないが……サイコものだった。ちなみに執着心と所有欲と嗜虐欲は山のようにあっても愛はない。
 オーストラリアのホラー映画である。高校生のブレントは半年前、自分が運転している車で事故を起こし、父親を死なせてしまった。それ以来、たった一人残った肉親である母親との関係にも軋みが入るようになった。たった一つの救いはガールフレンドのホリーの存在だ。
 そんな不幸な彼に、更なる不幸が襲い掛かる。地味な少女ローラに一緒にプロムに行かないかと誘われるのだが、ブレントはホリーを理由に断った。プロムを控えて散歩に出た彼は、愛犬を殺され、ローラと彼女を溺愛するローラパパという、狂人コンビに拉致監禁されてしまうのだった。
 そこから先は、ホラー映画ファン以外は見るものではない、拷問のオンパレード。
 恥辱と苦痛に耐えつつ、どうにか生きて死の家を出ようとあがくブレント。残されたブレントの母親とホリーは狂おしいほど心配しつつ、ブレントを探すため行動を起こすのだ。
 ブレントの母親からの通報を受け、動く保安官とその一家実は、保安官の息子も狂人父娘の被害者で、前述のブレントの自動車事故にも深く関わっている)のエピソードは、もっと上手に絡めて欲しかった。ここがうまかったら、今年見たホラー映画のベストスリーに入っていたのではないだろうか。
 しかし、始終ピンクのパーティードレスで凶行を繰り返す、ヒロインの少女のインパクトにはなかなかのものがあった。朝の光を浴びつつ、自作のアルバムを片手に、大きな包丁をもう片手に、鮮血にまみれたピンクのドレスで、アスファルトの道路をふらふらと歩くローラの姿には本当に鬼気迫るものがあった。むろん、そのあとの対決シーンにも。
 それに肉体はかろうじて生きているが、魂をすでに失ってしまったようなローラの母親……本当に母親なのだろうか、ブレントと同じよう、ローラの父親が拉致してきて、たまたま生き残った女性ではないのか?……の、眼前でどんな凄惨な出来事が起きようが無反応、無抵抗、その様子が怖い。
 これはなかなか面白かった。
 秀作。