FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

踊る骸/カミラ・レックバリ

 エリカ&パトリック事件簿シリーズ、第五作。
 良かった。会話文の軽薄さが直っている。あれが続くようならば、正直言って、このシリーズを買って読むのをやめるところだった。
 ところでこの『踊る骸』、長い。なんと七百ページを超える。筆力がある作者ゆえ、読んでいてつまらないエピソードはない。しかし登場人物の私生活など、殺人事件にあまり関わりない逸話も多く、「ああ、今この人達はこんな気持ちを抱きながら生活しているのか」という感慨と、「それはともかくとして、早く殺人事件のことを語ってくれないかな」という嘆息が交互に湧き上がる出来栄えとなった。
 これまでのすべてのエリカ&パトリックシリーズ同様、過去の出来事が現在に暗い影を落としている。またネレ・ノイハウス『深い疵』、デボラ・クロンビー『警視の偽装』といった多くの優れたミステリ同様、かつてのナチスの暴虐と、現代で起きた殺人事件がクロスする物語である。
 『死を哭く鳥』の最後で示された驚愕の事実……エリカの母親の遺品の中から、彼女の日記帳とナチスの古い勲章が見つかった。エリカと妹のアンナに冷たかった母親エルシとナチスには、どんな関係があったのか。やがてエルシの昔の友人達の間で連続殺人事件が起こる。エリカは、母の古い友人達の口から語られる、自分のまったく知らないエルシ像の愕然とするのだ。
 かつて、母親とその友人達の間になにがあったのか。時をゆったりと行きつ戻りつしつつ、真実が明らかになっていく。
 最後の最後で判明する事実に「そうだったのか」と顔をしかめ、そしてある人間の心情に憐みを覚える。
 秀作。しかし長い。