FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

折れた翼/ジュディス・ジェイムズ

折れた翼 (扶桑社ロマンス)

折れた翼 (扶桑社ロマンス)

 凄く面白かった。風変わりで、暗く、そして激しいロマンス小説。波乱万丈の物語であり、後半には冒険小説としての側面もある。これがデビュー作とは素晴らしい。
 現在本が手元にないので断言できないが、二見文庫から出版されたリディア・ジョイス『水の都の仮面』も、この『折れた翼』と同じく、もっと注目されて欲しい「埋もれた宝物」に選ばれたロマンス小説ではなかったか。あの作品もヴェネチアを舞台とした、暗く激しい、素敵な作品だった。
 フランス革命末期、イギリスの伯爵令嬢サラ……といっても若い未亡人だが……と、美貌の男娼出身の青年ガブリエルの恋が描かれる(この設定がユニークで、これまで貴族の男性と、高級娼婦のロマンスを描いた小説はあっても、その逆はなかった)。かつて生き別れになった弟は、パリの娼館に売られていた。それを知り、サラとその兄はパリへと渡る。まだ幼い弟ジェイミーは、男娼ガブリエルがずっと守ってくれていたおかげで無事だった。兄妹は、感謝の気持ちとしてガブリエルをジェイミーとともに娼館から連れ出す。
 男装し、海賊と付き合い……奔放に振舞うおかげで社交界からは白い目で見られているサラと、ガブリエルは惹かれあう。むろん身分違いの恋だ。ガブリエルは、サラのため身を立てようと、航海に乗り出す。それが、サラとの恋に影を落とすことになるとも知らずに。
 物語の中盤から登場し、ガブリエルの親友となるも放蕩児の御曹司ヴァルモンも実にいい。彼自身が主人公となった小説が一冊書かれてもいいぐらいだ。
 ここ数ヶ月に読んだ中では、もっとも心惹かれるロマンス小説だった。
 紛れもなく傑作。
 各種出版社さん、「埋もれた宝物」に選ばれたロマンス小説をもっと訳して下さい。

水の都の仮面 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

水の都の仮面 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)