記憶の家で眠る少女/ニッキ・フレンチ
- 作者: ニッキフレンチ,Nicci French,務台夏子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2000/05
- メディア: 文庫
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これぞ、本物の「イヤミス」。いや、偽物があるかどうかは知らないけれど。
読んだあと、落ち込むのではない、自分の立っている地面がひどく不安定なもののように感じられる。結末にやや曖昧なところがあるのだが、これは作者が狙いすまして曖昧にしたものであろう、現実の不気味な未解決事件の詳細を読んだかのような薄気味悪さ、落ち着かなさを感じる。
ロンドンの裕福な家庭。インテリの父母は殺され、咽を裂かれた娘フィオナのみが取り残された。テロリストと思しき犯人は、生き残ったフィオナを殺すかもしれない。愛娘エルシーと田舎へと引っ越した精神分析医サマンサは、フィオナを引き取り、面倒を見る。魂を失ったかのようなフィオナに手を焼いたものの、幼いエルシーは懐き、フィオナは少しずつサマンサに、そして周囲の人間に心を開いていくように見えた。
恋人ダニーとの関係がなかなかうまくいかない苛立ちはあるものの、良い方へ向かうとサマンサは一度は思ったのだ。
この一見感動的な物語は、中途から怒涛の展開を迎える。何度も何度も、読者は引っ張り回される。誰を信じていいのか、そして誰の行いが正しかったのか。本当に最後の最後まで引っ張り回される。この緊張感には、並みならぬものがある。
読んだあとに重く、暗く、そして割り切れないものが残る傑作。