FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

記憶の家で眠る少女/ニッキ・フレンチ

記憶の家で眠る少女 (角川文庫)

記憶の家で眠る少女 (角川文庫)

 これぞ、本物の「イヤミス」。いや、偽物があるかどうかは知らないけれど。
 読んだあと、落ち込むのではない、自分の立っている地面がひどく不安定なもののように感じられる。結末にやや曖昧なところがあるのだが、これは作者が狙いすまして曖昧にしたものであろう、現実の不気味な未解決事件の詳細を読んだかのような薄気味悪さ、落ち着かなさを感じる。
 ロンドンの裕福な家庭。インテリの父母は殺され、咽を裂かれた娘フィオナのみが取り残された。テロリストと思しき犯人は、生き残ったフィオナを殺すかもしれない。愛娘エルシーと田舎へと引っ越した精神分析医サマンサは、フィオナを引き取り、面倒を見る。魂を失ったかのようなフィオナに手を焼いたものの、幼いエルシーは懐き、フィオナは少しずつサマンサに、そして周囲の人間に心を開いていくように見えた。
 恋人ダニーとの関係がなかなかうまくいかない苛立ちはあるものの、良い方へ向かうとサマンサは一度は思ったのだ。
 この一見感動的な物語は、中途から怒涛の展開を迎える。何度も何度も、読者は引っ張り回される。誰を信じていいのか、そして誰の行いが正しかったのか。本当に最後の最後まで引っ張り回される。この緊張感には、並みならぬものがある。
 読んだあとに重く、暗く、そして割り切れないものが残る傑作。